葵上(あおいのうえ)

昭和11年に撮影され翌年に公開されたという
能のフィルムとしてはもっとも古い映画である葵上のDVDが
昨年に発売されていたことを息子が嗅ぎつけ
おじいちゃんにプレゼントしていました。


これは、シテを大正昭和の能楽界を代表する演者であり芸術院会員である
桜間弓川(さくらまきゅうせん)(1889〜1957)さんが、
ワキをやはり芸術院会員でありワキの名人として高い評価を受けていた
宝生新(ほうしょうあらた)(1870〜1944)さんが演じられているものです。


金春流で謡いをやっていた主人の父が、同じ映画のビデオを持っていて
何年も前に見ていたことがありましたが、何しろ昭和11年の映画の
ビデオテープであったために画質が悪くて悪くてお話にならなくて・・・
貴重な映画のフィルムだけど、このビデオテープがダメになったら
貴重なだけにもう二度と手に入らないだろうなぁ、と言っていたフィルムの
DVDです。


主人の父は若い頃から近年まで、長岡の金春会で金春流の謡をやっていた人です。
昭和24〜5年、主人の父が24〜5歳の頃
桜間弓川さんがちょくちょく長岡に謡を教えに来てくださっていたとかで、
普段地元で教えてくれている謡の先生から、「お前が行ってこの節回しの難しい所を
よ〜く聞いてきて、みんなに教えろ」と言われ、金春会の他の教室の数人と
一緒だったとは言え、差し向かいで桜間弓川さんに教えてもらい
しっかり覚えて帰って、他のみんなに謡って聞かせたことがある、と言っていました。


昔のことですから今のような便利な機械など無く
言ってみれば、大先生の謡をしっかり耳コピーして、地元の教室で再現した
ということですね。
桜間弓川という人はとにかく凄い人だったようで
主人の父は「若い頃、弓川さんに教えてもらった日は血が騒いで
夜中に一睡もできないことがよくあった」とよく言います。


そんなおじいちゃんが画質の悪いビデオを見ていることを
15年前に知った息子は、もっと画質のよい同じ映像が手に入らないものかと
その時からずっと探していたようです。


みんなで今日この貴重なフィルムのDVDを観賞しましたが
解説に、『この映画は能のフィルムとしては最も古く、桜間金太郎(弓川)
宝生新の芸を記録した唯一の貴重な映像』とありました。


おそらく昭和11年の頃の日本には記録映画を残すなど
まだ技術的に難しかったようで
アメリカが記録を残すためにということで演じられたものとのことで
解説のナレーションや説明の字幕がすべて英語でした(^ ^;)


能舞台も文部省がそのために突貫工事で造らせたものらしく
舞台の柱に節など無いのが本当らしいのですが、節がバッチリ見えてました。


舞台が突貫工事だったとか、アメリカが日本の芸術の記録を残すために
作った映画だった・・・などは
おじいちゃんの解説がなければ知り得なかったことですが
そういう裏事情がわかった上で観ると、
今から70年以上も前の貴重な日本の芸術がとても身近に感じましたし
おじいちゃんからそんな裏事情を聞けて
面白くて、なんだかちょっと得した気分になりました(^−^)